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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

世の中の男どもは、あれの美しさに惹きつけられて、我も我もとこの儂のところに云い寄って来ては、執拗くあれを所望したが、誰も彼もみな一時の浮気心であれを我物にしようとする色好みの愚か者ばかりなのじゃ。あれの生い立ちを話して聞かせても、一人として信ずる者はおりませなんだ。儂の話を本当にせぬばかりか、終いには、皆、寄ってたかってこの儂を物狂い扱いにして、見向きもせんようになってしもうた。儂はまことの心で儂の話を聞き入れてくれる人はもうこの現し世には一人もおらぬものと諦めてしもうた。……儂が己が力で己が現そ身を捨てて行ったのじゃ。……お分りかな? なよたけを夢と云うなれば、この儂も夢なのじゃ。今ではこうしてこの竹の里で、儂自身が夢になってしもうたような気がする……現の影はみな遠い昔の夢のように儂の心から薄れて行ったのじゃ。……物皆が儂の心から次第に喪われて行く。……儂があれほど愛しておったなよたけのかぐやまでが、儂の心からだんだんと離れて行くのじゃ。……儂はあれを無明の中に喪うてしまいたくはない。お若い方、現そ身の人なれば、儂に代ってかぐやを信じて下され。