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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

綾麻呂 見えるとも! 晴れた日なら、百里も離れた所からでも見えるだろう。……いや、もう、何と云うか、……実に見事なのだ。実に高いのだ。実に美しいのだ。

間――

衛門 (指さして)あの辺でございますか?

綾麻呂 (前方右を指し)いや、……あの辺だ。

衛門 何でも話に聞くと、摺鉢を伏せたような山だそうではありませんか?

綾麻呂 情無いことを云う奴だな。……摺鉢とは情無いことを云う奴だ。そんなのは凡人の言草だ。……せいぜい、下手糞な絵でも見た奴が考え出した形容だろう。……実物を見れば、それこそ物も云えなくなってしまうのだ。……何と云うかな?……何とも云いようがない。「天雲のそきえのきわみ……」とでも読み出さなければ、とても後が続かない。

衛門 今時分でも頂上には雪が積っているのだそうですね?

綾麻呂 積っている。……儂がここへ赴任して来た当時は半分から上は純白の雪に蔽われていた。……この長雨で、あるいは幾らか溶けてしまったかもしれんが、……ま、いずれ雲が晴れてみれば分る。……玲瓏と云うか崇厳と云うか、とにかく、あれは日の本の秋津島の魂の象徴だ。……儂はもう文麻呂の奴に早くみせてやりたくてな。