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なよたけ

なよたけ

加藤 道夫

「三田文学 四・五月号、六月号、七・八月号、九月号、十・十一月号」1946(昭和21)年5月~10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 81,415 字 · 163 页

青空文庫

文麻呂 万葉集ですか?

綾麻呂 うむ。……あれはいい本だな。あれはお父さんも感心した。どの歌もどの歌もみんな偽りのない魂がこもっている。歌よみ根性がないから、読む者の心を打つのだ。心の底から詠いきっているから、こっちの心の底にもひびいて来るのだ。歌を作るならああでなくてはお父さんはいけないと思う。……文麻呂! あの中でな、お父さんの大好きな歌がひとつあるのだ。……

文麻呂 何て云う歌です。

綾麻呂 (遠く不尽を望みながら、朗々と朗誦し始める)……

天地の 分れし時ゆ 神さびて

高く貴き 駿河なる 布士の高嶺を

天の原 ふり放け見れば 渡る日の

影も隠ろい 照る月の 光も見えず

白雲も い行き憚り 時じくぞ

雪は降りける 語り継ぎ 言い継ぎ行かむ

不尽の高嶺は……

文麻呂 (不尽を仰ぎながら)あの時代には国中の人達が美しい調和の中に生きていたのですね。……お父さん! 僕はしあわせです。(うっとりとして)万葉を生んだ国土。うつくしい国土。僕はこの国に生れたことを心の底からしあわせに思っています。

右手、遠くの方から、瓜生ノ衛門夫婦の唄う「瓜作りの歌」が聞えて来る。

笹山の 山坂越えて