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のらいぬ

のら犬

新美 南吉

「赤い鳥」1932(昭和7)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,431 字 · 7 页

青空文庫

ほい、おあしをここへおくよ。」

常念坊はかた手におまんじゅうのつつみと、ちょうちんをさげ、かた手にだんごのつつみをもって、峠にかかりました。その峠をおりて、たんぼ道を十丁ばかりいくと、じぶんの寺です。

もう、あのいやな犬もついてこないので、安心して、てくてくあがっていきますと、やがてうしろのほうで、クンクンという声がします。

「おや、また、あの犬めがきたな。」

と、常念坊は思いました。

かまわず、どんどんいきましたが、ふと考えました。うしろからくるのは、犬ではなくて、おばあさんがいった、あのきつねがつけてきたのではなかろうか。こう思うと、じぶんのうしろには、ずるいきつねの目が、やみの中に、らんらんと光っているような気がします。気の小さな常念坊は、ぶるっと、身ぶるいをしました。

でも、うしろをふりむくのもこわいので、ぶきみななりに、ぐんぐん歩きました。なんだかうしろでは、きつねがいつのまにか女にばけていて、今にも、きゃっといって、とびついてきそうな気がします。

常念坊は、そのきつねのことを、わすれようわすれようとするように、ちょうちんのあかりばかりを、見つめて歩きました。