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のらいぬ

のら犬

新美 南吉

「赤い鳥」1932(昭和7)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,431 字 · 7 页

青空文庫

二

やっとのこと、村へきました。村へはいると、すこしほっとしました。村では、どこのうちも、よいから戸をしめてしまうので、どっこも、しいーんとしています。その中で、どこかのうちで、きぬたをうつ音が、とおくにきこえます。

そのとき、ふと気がついてみますと、左手にもっていた、だんごの竹の皮づつみが、いつのまにか、なくなっています。

「おや、しまった。うっかりして、落としたかな。それともきつねのやつが、そっと、ぬすみとってにげたかな。ちょっ。」

常念御坊はいまいましそうに、おまんじゅうのつつみと、ちょうちんとを両手にもちわけて、うしろをむいてみました。

もう、なにもおりません。やがて、寺の門の前にきました。立ちどまって、もう一ぺん、うしろをよく見ますと、きつねらしいものが、のこのこつけてきています。

常念坊は門をはいると、

「正観、正観。」

と、庫裡のほうへむかってどなりました。

「はい。」

とへんじがきこえて、正観が、ごそごそ鐘楼からおりてきました。

「おい。きつねだ、きつねだ。ほうきをもってこい、ほうきを。ほうきで追いまくれよ。」

正観はとんでいって、ほうきをもって、門のほうへかけつけました。