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はたしじょう

はたし状

山本 周五郎

「週刊朝日 新年増刊」朝日新聞社、1951(昭和26)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,525 字 · 39 页

青空文庫

「いろいろ心配をかけて済まなかったが、どうかその事はもう暫く、このままそっとしておいて呉れないか」

「しかしそうはいかないんじゃないのか、第さんの気持はよくわかってる、おれだって不愉快だから、できるなら闇へ葬ってしまいたいよ、だが……ふりかかる火の粉は消さなければならない、さもないと焼け死ぬかもしれないからね」

彼の暗示的ないいぶりは効果があった。第二は初めて千久馬の顔へ振向いた。

「それは藤島のことをいうのか」

「彼は悪辣に第さんを陥れようとしているよ」

「だって」第二はちょっと口ごもった、「――それは、なんのためにだ」

「想像がつかないかね」

暫く黙って歩いた。第二は自宅へ曲る道を通り越して、藩侯の泉亭のあるほうへ向っていた。……やがて千久馬が「彼と出会ったそうだね」と云った。第二はちょうどそのときの情景を思いだしていたが、返辞をするのもいやで、ただ頷いてみせた。

「そのときおれについてなにか云わなかったかね、いや聞くまでもない、中傷することはわかってるんだ、彼はおれを第さんに近づけたくはない、おれの口からなにがばれるか、彼は身に覚えがある、ほかの者はとにかくおれだけは第さんから離して置きたい筈だ」