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はたしじょう
はたし状
山本 周五郎
「週刊朝日 新年増刊」朝日新聞社、1951(昭和26)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 19,525 字 · 39 页
第二はそうも思った。友人としてもいちばん親しいし、彼は和田へもよく出入りしていた。彼ならば、まだ知らないとしても、ようすをさぐることくらいはできる。……こう思ったけれども、やはりいざとなると手紙は書けなかった。婚約は内輪だけのことで、ほかの親族や友人たちにはまだ正式には知らせてはない。それをいきなりそんな問合せをするのは不作法でもあるし、無用に恥をさらすようにも考えられた。
こんなふうに思い惑っているとき、およそ父の手紙に十日ほど遅れて、八木千久馬からの手紙が届いた。千久馬は達筆である。古碑文の拓本など習った独特の筆法で、捻ったような活溌な字を書く。第二はその手紙の、ひと眼でわかる彼の署名を見たとき、われ知らずあと声をあげた。
「――千久馬……」
第二の耳に千久馬の声がよみがえった。送り祝いの夜、彼の囁いた声が――よかったね、おめでとう。誰も知らない筈のことを彼は知っていた。もちろんふしぎではない、千久馬もしのとは従兄妹に当る、しのの母は千久馬の亡くなった父の妹だから……。そして、第二や藤島ほど繁くはなかったが、彼もまた和田へはよく顔をみせていたから。