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ばちあたり
ばちあたり
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页
彼は重たげに頭を振り、べそをかくような顔つきで云った、「あんたたちにはわからない、あんたたちにはなんにもわかっちゃいないんだ」
「よせよ」と啓三が云った、「芝居のせりふみたいじゃないか、いったいおれたちがなにを知らないっていうんだ」
「なんども云ったじゃないか」敏夫の声がふるえだした、「ぼくは独りでかあさんを葬むりたいんだ、ぼくはかあさんと約束したんだ、死んでも湯灌なんかしないでくれ、誰にも体を見られたくない、ぼくにさえ見られたくないって云ったんだ、通夜もぼく一人だけでしてくれ、誰にも通夜はしてもらいたくない、そのまま焼いて骨にして、その骨は山でも野原でも、どこでもいいから撒きちらしてくれ、きっとそうしてくれって、いくどもいくども約束させられたんだ」
敏夫の眼から涙がこぼれ落ちたが、彼は拭こうともせず、こぼれ落ちるままに言葉を切った。姉は呆れたような眼で私を見た。私は感情が顔にあらわれるのを、けんめいに抑えるだけで精いっぱいだった。
「あたしにはわけがわからない」と姉が云った、「そんな話しってあるかしら、健さんあんたどう思って」
「わかりませんね」と私は答えた。