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ばちあたり
ばちあたり
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页
啓三はとびだしてゆき、姉はわなわなとふるえていた。
「どうなるの、大丈夫」と姉はのぼせあがったように云った、「どうしてこんなばかなことをしたのかしら、本当に死ぬつもりだったのかしら、健さん、この子は大丈夫」
「水を持って来て下さい、土瓶がいい、大きいのに入れて来て下さい」
姉は躓ずきながら出ていった。
テープ・レコーダーは空廻りをしていた。母の小言はもう終って、空転する音だけが聞えてい、私は敏夫の上半身を抱き起こした。薬は梅酒の中に混ぜてあったのか、そのまえからのんでいたのか、いずれにせよこいつは死ぬ気だった、と私は思った。失恋したときに死のうとしたと云った。それが現在まで続いていたのか、それとも母に死なれたことと、自分の将来に絶望したためだろうか。おそらく、それらが積重なって自殺する気になったのであろう、と私は思った。
「しかし失敗だったよ、敏夫」と私は彼の上半身を抱えたままで呟やいた、「君はこんども失敗した、君は死にゃあしないよ」
姉が水を持って来た。私は姉に、敏夫の口をあけさせて、土瓶の口からむりに水を流しこんだ。敏夫は唸り声をあげ、首を振り、身をもがいた。