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ばちあたり
ばちあたり
山本 周五郎
「小説新潮」新潮社、1960(昭和35)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,391 字 · 44 页
なんでしょう、スライドを映しながら、そのテープをかけて聞かせて、敏夫がそれについて講演するんだっていう話しだったわ」
「すっとぼけた野郎だな、そんなことをして食っていけるんですかね」
「食う心配はないでしょ、池田からお金が来るんですもの」
「そうか」と啓三が云った、「そうだ、それがいけねえんだな、そんな金があるからまじめに働らく気になれないんですよ」
「それだけじゃない、敏夫のは生れつきだっていうこと知ってるじゃないの、小さいじぶんからおちつきのない、気の変りやすい、そのくせ片意地な子だったわ」
姉と啓三は敏夫の非難を続けていた。そのうちに私はうとうとしたらしい、昼食のときは啓三に呼び起こされて食堂車へいった。
食事まえにビールを少し飲んだのが効いたのだろう、座席へ戻って暫らくすると、私はまた仮睡にひきこまれた。
「そっとしておいてあげなさい」と姉が啓三に云った、「健さんよっぽど疲れてるのよ」
私は眼をつむったまま、頭の位置をぐあいよく直した。
仮睡は浅かった。眠りと眼ざめのあいだの不安定な意識の中で、私は敏夫のことを考えていた。母にもしものことがあれば、そして、こんどは助からないだろうと思うのだが、そうなったとき敏夫がなにかやりはしないか、というおそれが強く私には感じられるのであった。