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ひとごろし
ひとごろし
山本 周五郎
「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页
そして高岡というところへ来たとき、意外なことが起こった。高岡は富山松平家十万石の所領であり、城下町の富山よりもおちついた、静かな風格のある町だった。昂軒は本通りの松葉屋市兵衛という宿に泊り、六兵衛もよく見定めてから同じ宿で草鞋をぬぎ、特に帳場の脇の行燈部屋に入れてもらった。それから例によって、夕食を運んで来た女中に昂軒のことをきくと、二階の「梅」にいること、いま風呂からあがって酒を飲んでいること、向うでも六兵衛を気にしていること、などを詳しく話した。そこで彼は女中に心付をはずみ、その侍は大悪人であり、自分は討手として追っている者だ。もしかすると隙をみて逃げだすかもしれないから、よく見張っていてくれと頼んだ。女中は承知をし、どんなことがあってもみのがしはしない、とりきんで頷いた。
夕食のあと六兵衛はざっと湯を浴び、汗臭い着物に埃だらけの袴や脚絆をつけて、半刻ばかり横になって眠った。ながくは寝ていられない、あいつを休ませるばかりだからな、おれの勝ちみはあいつをへとへとにさせることだけなんだぞ。眠りながらそんなことを思っていると、誰かに呼び起こされた。