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ひとごろし

ひとごろし

山本 周五郎

「別冊文藝春秋」1964(昭和39)年10月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 22,607 字 · 45 页

青空文庫

と昂軒は続けた、「きさまも侍なら、どうして勝負をしないんだ、いまここでもいいんだぞ、こんな茶番芝居みたようなことにはうんざりした、勝負をしろ」

「それはだめだ」六兵衛は唇を舐めてから答えた、「私とおまえさんでは勝負にならない、私のほうでも初めから云ってある筈だ、私は私のやりかたで上意討をするほかはないんだ」

「きさまそれでも武士か」

「それはまえにも聞いたよ」

「しかも恥ずかしくはないんだな」

六兵衛は頭を左右に振り、「ちっとも」と云った、「私はもともと臆病者と定評のある人間なんだ、いまさらなんと云われようと恥ずかしがることはこれっぽっちもないさ」

「どこまで跟けて来る気だ」

「それはおまえさんしだいさ」と云って六兵衛は歯を見せた、「――おまえさんがへたばるまではどこへでもついてゆくよ、路銀は余るほど貰ってあるからね」

「きさまはだにのようなやつだ、人間じゃあないぞ」

「福井へ帰ったらそう云いましょう」と六兵衛は逃げ腰で答えた、「きっとみんなよろこぶにちがいない」

「勝負はしないのか」

「そちらしだいです、念には及ばないでしょうがね」

「おれはいやだ、飽きはててうんざりして、生きているのさえいやになった」