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ひとでなし

ひとでなし

山本 周五郎

「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页

青空文庫

もっときつくして、とおようが云った。

「こんどあの人から話があったときは、あたしちっとも迷わなかった、いちにち考えただけで承知したわ」

「いやと仰しゃったって、旦那のほうであとへはひかなかったでしょうよ」

「それはわからないわ」

「あたしにはわかってました、旦那のそぶりでちゃんとわかってました」とおつねは元結をしめながら云った、「初めっからですよ、旦那はしんそこおかみさんが好きだったし、口にこそ出さないけれど、好きだということを隠そうともなさいませんでしたわ、それでいてちっともいやみなところはないし、おれがという顔もなさらない、だから、そうらしいなと勘づいたお客もいたけれど、一人だって悪く云ったためしはありませんでしたわ」

障子をあけて、おみつがはいって来た。

「与兵衛さんがいらっしゃいました」とおみつは長火鉢のそばへ寄りながら云った、「それから太田さんやなべさんが、おかみさんはまだかってせっついていますわ」

「みんなが揃ってからよ」とおつねが云った、「今夜はお祝いなんだから、みなさんの顔が揃ったらおかみさんも出ますって」

「いいのいいの」とおようが遮った、「いま髪を解いてますから、ちょっとたばねたらまいりますって、そう云っといてちょうだい」