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ひとでなし

ひとでなし

山本 周五郎

「講談倶楽部」1958(昭和33)年1月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 18,484 字 · 38 页

青空文庫

障子の向うは店で、はあいと高い返辞が聞え、すぐにおみつがはいって来た。

「まだお二人」とおようが訊いた。

「いいえ、いまなべさんがいらっしゃいました」とおみつが答えた。

「みっちゃん」とおつねが梳櫛を使いながら云った、「失礼よ、なべさんだなんて」

「失礼なもんですか」おみつは云い返した、「そばをとおるたんびにひとのお尻へ触るんですもの、いまだってゆだんをみすましてこうよ」とおみつは手まねをし、客の口ぶりを巧みにまねて云った、「そして、どっちりしてるなあ、だって、いけ好かない」

「あんまり気取らないの」とおつねが云った、「忠さんか伝さんならこっちから押しつけるくせに」

「あらいやだ」おみつはつんとした、「あたし誰にだってお尻なんか触られるの嫌いよ」

おみつは銅壺から燗徳利を出し、布巾の掛けてある膳から摘み物の小皿を二つ取り、それを盆にのせて店のほうへ出ていった。おようはまた燗徳利を二本、銅壺の中へ入れ、おつねは話を続けた。

「そう、あんた水戸だったの」とおようが云った、「それにしては訛りがないわね」

「十のときから江戸へ奉公に来てましたからね、十八の年に嫁にゆくんで水戸へ帰った