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ひどいけむり
ひどい煙
久生 十蘭
「オール讀物」1955(昭和30)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,064 字 · 18 页
喜三郎は同心の座から立ち出ると、老中の幕舎に敬礼し、臼砲の最初の伝習にとりかかった。
喜三郎は、思いのほか、要領よくやってのけた。まず砲口を四十五度の仰角にひきあげ、薬室に火薬を込め、その上に槇肌を巻いてつくった丸い板を置き、榴弾を入れ、湿った草を榴弾と砲腔の隙間に固く詰めこんだ。
喜三郎は、四分円の目盛環を見ながら、射程を測っているふうだったが、半十郎のいるほうへ振返り、誇るかにも見える、高慢な態度で軽くうなずいてみせると、前方から導火管に火をつけた。
弾丸は大きな弧を描きながら四町ほども飛び、向い並びの前測の標的に命中して、猛烈な勢いで燃えあがった。
喜太夫の喜悦ぶりにひきかえ、外記はひどく不機嫌な顔をしていた。外記は、なにを考えていたのか、半十郎にもわかりかねたが、このときの印象は、心のどこかにとまって、外記が死んだあとも、長いあいだ、忘れることができなかった。
喜三郎と代って、半十郎が砲座に上ったが、国友村の鉄砲鍛冶の家で、曲りなりにも天砲を張立てた経験があるので、手心のわからないものに立ちむかう不安はなかったが、張立ての大筒を試射するときに襲われる、身震いの出るような心の勇みは、なぜか、すこしも感じられなかった。