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ひどいけむり
ひどい煙
久生 十蘭
「オール讀物」1955(昭和30)年7月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 9,064 字 · 18 页
そのとき、田付四郎兵衛は、ほとほと愛憎をつかして、
「オランダ人どもは、御忠節の、御奉公筋のと、しおらしいことを吐かしておるが、これで底が知れた」
と苦りきった顔でいった。
こういう次第で、カロンの愚かな臼砲は、御鉄砲御用衆から、あっさりと見離されてしまったが、こうなるまでには、オランダ人の側にも、言い知れぬ辛い事情があったのである。
寛永十五年の正月、島原の乱のとき、そのときの商館長クッケルバッケルが幕府から督促をうけて、原城の攻撃に参加することになり、館員の一人だったフランシスカス・カロンがデ・リィプ号に乗って、出丸の砲撃を指揮した。
原城の出丸は、鴨の首のかたちに海に突きだした尾崎の突端、裾通りに狭い細谷をへだてたむこうの松林の中にあり、橋本左京というのが出丸の大将で、千人ばかりで守り、鍋島信濃の軍勢が攻め口をとっていた。
はじめのうち、カロンはデ・リィプ号の甲板から小さな五ポンドの旋回砲で砲撃していたが、出丸に立籠っている女や子供は、恐れるようすもなく、
「サンチャゴ(南無八幡というほどの意)」
と口々に叫びながら、出丸の馬出しから細谷の浦へおり、足るほどに磯草を採ったり、磯辺に跪いてパーテル・ノステルの祈祷を唱えたりする。