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ふたりのおばさん

ふたりのおばさん

室生 犀星

「銀河 第三卷・第一号 一月号」新潮社、1948(昭和23)年1月1日

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,817 字 · 10 页

青空文庫

サクラの花弁くらいしかないカニは、おばさんから借りたどんぶりに七八つもつかまえると、どんぶりが白い陶器の地の色であるから、カニのかっこうがことさらに美しく見えるのである。リョウヘイはカニというものの十本の足がよくもあんなにたくさん必要なものだと、考えていた。人間は二本あればたくさんなのに、カニは十本もあってしかもみな同じ足なのであるから驚く、まるであれは機械じゃないかしら、機械というものも、やはりカニの足から考えついたのかもしれないと思っていた。リョウヘイは好きなカニをつかまえると、ガケをつたっておばさんの家にもどり、おばさんのすわっている長ヒバチの向こう側にすわり、どんぶりの中をのぼってはすべり落ちるカニを見ながらおばさんの焼いてくれるカキモチの固いやつをぽりぽりかじるのである。おばさんの家には年じゅうカキモチが正月からしまってあって、リョウヘイが遊びにゆくときっと二枚だけ焼いてくれるのである。カキモチは正月からあるのだから石のように固い、それをかみしめるとミツのように甘い。おばさんはどんな話をしてくれたか覚えていないが、おばさんの顔は大きく、いくらか四角な感じで目は細く、もののいい方がのんびりしていて、せかせかしていない、リョウヘイの顔を見るだけで、ほかのものを見ないで話をするのである。