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まかないのぼう

まかないの棒

黒島 伝治

1923(大正12)年12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,538 字 · 10 页

青空文庫

冬の寒い日だった。井戸端の氷は朝から、そのまま解けずにかたまっていた。仕事をしていても手は凍てつきそうだった。タバコが来ると、皆な急いで焚き火の方へ走って行った。

「京よ、一寸、まかない棒を持って来い。」

さきから来て温まっている古江は、京一がやって行くと、笑いながらそう云った。

「は。」

もう醸造場へ来てから一カ月ばかりたっていた。一カ月もたてば、醤油屋で使う道具の名前は一と通り覚えてしまわねば一人前の能力がないものゝように云われていた。で京一は、訊ねかえしもせずに、知っている風をして、搾り場の道具を置いてある所へ行って、まかない棒を探した。一寸、聞いたことのあるような名だったが、どれがそうなのか思い出せなかった。

焚き火の傍へ行って、殊更らしく訊ねかえすと、他の労働者達に笑われるので気が引けた。何とかして、自分で探し出して持って行かねばならない。

「まかない棒というから、とにかく棒には違いないんだろう。」

彼は、醤油を煮ている大きな釜の傍にササラやタワシや櫂などを置いてある所を探しまわった。

「何を探しよるんどい?」焚き火の方へ行こうとして事務所からやって来た仁助がきいた。