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みちのき
みちの記
「東京新報」1890(明治23)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,251 字 · 15 页
家のつくり、中庭を囲みて四方に低き楼あり。中庭より直に楼に上るべき梯かけたるなど西洋の裏屋の如し。屋背は深き谿に臨めり。竹樹茂りて水見えねど、急湍の響は絶えず耳に入る。水桶にひしゃく添えて、縁側に置きたるも興あり。室の中央に炉あり、火をおこして煮焚す。されど熱しとも覚えず。食は野菜のみ、魚とては此辺の渓川にて捕らるるいわなというものの外、なにもなし。飯のそえものに野菜煮よといえば、砂糖もて来たまいしかと問う。棒砂糖少し持てきたりしが、煮物に使わんこと惜しければ、無しと答えぬ。茄子、胡豆など醤油のみにて煮て来ぬ。鰹節など加えぬ味頗旨し。酒は麹味を脱せねどこれも旨し。燗をなすには屎壺の形したる陶器にいれて炉の灰に埋む。夕餉果てて後、寐牀のしろ恭しく求むるを幾許ぞと問えば一人一銭五厘という。蚊なし。
十九日、朝起きて、顔洗うべき所やあると問えば、家の前なる流を指さしぬ。ギヨオテが伊太利紀行もおもい出でられておかし。温泉を環りて立てる家数三十戸ばかり、宿屋は七戸のみ。湯壺は去年まで小屋掛のようなるものにて、その側まで下駄はきてゆき、男女ともに入ることなりしが、今の混堂立ちて体裁も大に整いたりという。