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みちのき
みちの記
「東京新報」1890(明治23)年8月~9月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 7,251 字 · 15 页
この間に信濃川にかけたる舟橋あり。水清く底見えたり。浅瀬の波舳に触れて底なる石の相磨して声するようなり。道の傍には細流ありて、岸辺の蘆には皷子花からみつきたるが、時得顔にさきたり。その蔭には繊き腹濃きみどりいろにて羽漆の如き蜻あまた飛びめぐりたるを見る。須坂にて昼餉食べて、乗りきたりし車を山田まで継がせんとせしに、辞みていう、これよりは路嶮しく、牛馬ならでは通いがたし。偶※(二の字点、1-2-22)牛挽きて山田へ帰る翁ありて、牛の背借さんという。これに騎りて須坂を出ず。足指漸く仰ぎて、遂につづらおりなる山道に入りぬ。ところどころに清泉迸りいでて、野生の撫子いと麗しく咲きたり。その外、都にて園に植うる滝菜、水引草など皆野生す。しょうりょうという褐色の蜻※(「虫+廷」、第4水準2-87-52)あり、群をなして飛べり。日暮るる頃山田の温泉に着きぬ。ここは山のかいにて、公道を距ること遠ければ、人げすくなく、東京の客などは絶て見えず、僅に越後などより来りて浴する病人あるのみ。宿とすべき家を問うにふじえやというが善しという。まことは藤井屋なり。主人驚きて簷端傾きたる家の一間払いて居らす。