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もののいえないもの
もののいえないもの
小川 未明
「大毎コドモ」1934(昭和9)年10月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 4,387 字 · 9 页
「弱っているんだね。」と、敏ちゃんはかわいそうになりました。
「いいえ、はじめて広いところへ出て、びっくりしているのだわ。」と、姉さんは、そのおどろいたようなきりぎりすをながめていました。
そのうちに、きりぎりすは長いひげを動かして、草のしげった中へはいっていきました。そのさびしそうなようすが、敏ちゃんの目にいつまでものこっていました。
「やはり、お家においたほうがよかったかな。」と思っていたところへ、徳ちゃんが今日、へびの話をしたからです。
なるほど、へびというようなおそろしいものが、やぶの中に住んでいることに気がつかなかったと、敏ちゃんは後悔をしました。しかし、そんなことをいまさらお母さんや姉さんにいってもしかたがないと思ったので、自分ひとりで逃がしてやったきりぎりすのことを思い出していたのでした。
「やはり、お家においてかわいがってやればよかったんだ。かわいそうなことをしたなあ。」と思っていると、そとから、
「敏ちゃあん!」と、仲よしの徳ちゃんのよぶ声がしました。
「いま、いくよ!」
敏ちゃんは急に元気になってとびだしました。
あちらで、カチカチという紙芝居の音がきこえていました。