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もののかげ
ものの影
豊島 与志雄
「心」1952(昭和27)年1月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 8,794 字 · 18 页
反撥の気が眼にこもって、憎悪の念が湧いてくる。
死神にとっ憑かれたような、あのしょんぼりした姿が、何よりも忌わしいのだった。そしてあれに手をつけたことが、忌わしいのだった。手を洗え。手を洗え。血を流したからではない。
彼はますますアルコールにしたしむようになった。朝から飲むこともあった。
そこの、丈高い雑草を押し分けて、しきりに棒で突っついてる男がいた。青いジャケツ、カーキ色の汚れたズボン、なんだか浮浪者めいた姿である。
彼は背を伸ばし、五十年配の陽やけした顔を挙げ、彦一の方をじろりと見て、軽く会釈をした。田中さんだ。
狂人、というほどではないが、頭がだいぶおかしいとの評判だった。
アパート附近の家並の出外れに、荒地があって、その片隅が、塵芥捨場のようになっていた。あちこちからそこへ、塵芥を捨てに来る。塵芥の中には、紙屑や落葉がたくさん交っている。すると、田中さんがやって来て、それに火をつけた。たいてい午後から夕方へかけてだ。塵芥交りの紙屑や落葉は、容易に燃えきらず、いつまでもくすぶっている。田中さんはそれを掻き廻して、丹念に燃やそうとする。そして夕方、薄暗くなると、ふらりと立ち去ってゆく。