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らんのはな

らんの花

小川 未明

「真理」1936(昭和11)年6月

N3 · 进阶 · 新字新假名 · 4,095 字 · 9 页

青空文庫

話がすこし横道に入りました。また、らんにもどりますが、これは、らん屋で他の人が話をしているのを聞いたのでした。

大資産家なら知らず、そうでないものが、一万円のらんを求めるというのは、よほどの好者ですね。それも全財産をただの一鉢のらんに換えたというのですから、驚くじゃありませんか。その人は、時計屋さんですが、金網の箱を造って、その中に、らんを入れておいたというのです。白い葉に、白い花という、珍品ですから無理もありません。ところが、時計屋さんは、仕事も手につかず、毎日、らんの前にすわって、腕を組んで、「いいなあ、いいなあ。」といっては、考えていたというが、とうとう憂鬱病にかかって、なにを思ったか、らんを引き抜いて煎じて飲むと、自分で頸をくくって、死んでしまったそうです。

「いや、その気持ちがわかる。」と、一人がいいました。

私が、この話をきいているうちに、神さまにしかわからないものを人間が知ろうとして見つめていたら、だれでも気が狂うだろうと思いました。

だが、あの宝石のもつ美しい色や、花のもついい香いというものは、神さまにだけ支配されるものでしょうか? たしかに、人間の心を喜ばせるものにちがいありません。