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わがつまのき

わが妻の記

伊丹 万作

「りべらる」1946(昭和21)年4月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,719 字 · 8 页

青空文庫

と言つている。このモルガンお雪というのはたしかに感じが出ている。着物はほとんど全部私が見立てて買つたものばかりだ。もちろんどれも十年も前に買つたものばかりであるが、いま取り出してもまだ渋いようなものが多い。帯は二本か三本しかない。そのうちの一本は私が描いてやつたものである。絵は梅の絵で、右肩に『唐詩選』の句が賛にはいつている。それがちようどお太鼓の所一ぱいに出る。地は黒じゆすで顔料は油絵具のホワイトを少しクリーム色に殺して使い、筆は細い日本筆を用いた。

妻はよほどこの帯が気にいつたとみえて、十年ほど、どこへ行くにもこれ一本で押し通したため、しまいには絵具が剥げて法隆寺の壁画のようになつてきた。それで五、六年前に新しく描き直してやつた。だから今のは二代目である。いつたい、妻は着物はねだらないほうである。着物はかまわないから家具を買つてくれという。好きな家具や調度を磨いたり眺めたりするのが唯一の道楽のようである。

今までに彼女をもつともひきつけたのは宮沢賢治で、今も宮沢賢治一点ばりである。別に芸術価値がどうというのではなく「こんな心の綺麗な人はいない」