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わがまち
わが町
織田 作之助
「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页
「他あやん、そんな暖簾に凭れて麩噛んだみたいな顔せんと、もっと元気出しなはれ。おまはんまで寝こんでしもたら、どんならんぜェ。」
そんな口を敲くと、他吉は、
「何ぬかす、あんぽんたん奴。わいが寝こんでしもて、孫がどうなるもんか。ベンゲットの他あやんは、敲き殺しても死なへんぞ。」
と、〆団治の顔じゅう睨みまわしたが、けれど、直ぐしんみりして、
「言や言うもんの、〆さんよ、婿の奴と初枝はわいが殺したようなもんやなア。」
だから、もう自分の命は孫の君枝に呉れてやるのだと、他吉は、界隈の金持で子供がないという笠原から、生れた子を養子にと請われたのも断り、君枝を里子に出した足で、一日三十里梶棒握って走った。里子の養育料は足もとを見られた月に三十円の大金だ。なお、婿が大阪に残して行った借金もまだ済んでいない。他吉の俥はどこの誰よりも速く、客がおどろいて、
「あ、おっさん、そないに走ってくれたら、眼ェがまう。もうちょっとそろそろ行って貰えんやろか。」
と、頼んでも、いや、わたいはひとの二倍、三倍稼がねばならぬからだ故、ゆっくり走っては居れぬのだと、きかなんだ。
朋輩との客の奪い合いにも勿論浅ましいくらい厚かましく出て、「ベンゲットの他あやん」