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わがまち
わが町
織田 作之助
「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页
」
と、そこらあたり睨みまわす眼にも普段の光が無かった。
やがて、入学式に連れて行くと、君枝は名前を呼ばれても返辞せず、他吉はかわって答えてやり、よその子は皆しっかりしているのに、この子はこの儘育ってどうなるかと、おろおろした。さすがにその日は他吉が附き添い故、誰にも虐められずに済んだが、翌日からもう君枝は泣いて帰った。けれど、他吉は俥をひいて出ていて居ず、留守中ひとりでも食べられるようにと、朝出しなに他吉が据えて置いた膳のふきんを取って、がらんとした家の中で一人しょんぼり食べ、水道端へ水をのみに行って、水道の口に舌をあてながらひょいと見ると、路地の表通で、中の中の小坊さん、なんぜ背が低い、親の逮夜に魚食うて、そんでエ背が低い。そして、ぐるぐる廻ってひょいとかがみ、うしろに居るのは誰。女の子が遊んでいた。君枝は寄って行き、
「わて他あやんとこの君ちゃんや。寄せてんか。」
と、頼んで仲間に入れて貰ったが、子供たちの名に馴染みがなくて、うしろにいるのは誰とはよう当てず、
「あんた、辛気くさいお子オやなア。」
もう遊んでくれなかった。
そんな君枝が不憫だと、〆団治は落語を聴かせてやるのだった。