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わがまち

わが町

織田 作之助

「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页

青空文庫

「他吉!」

と、いきなり呼ばれ、五六人の俥夫に取り囲まれた。咄嗟に「ベンゲットの他あやん」にかえって身構えたところを、ようもひとの縄張りを荒しやがったと、拳骨が来て、眼の前が血色に燃えた。

「何をッ!」

と、振りあげた手に、振っていた玩具が自身の眼にはいらなかったら、他吉はその時足が折れるまで暴れまわったところだが、今ここで怪我をしては孫が……。他吉は気を失っただけで済んだ。やがて、ベンゲットの丸竹の寝台の上に寝ている夢で眼を覚すと、そこはもとの橋の上で、泡盛でも飲み過ぎたのかと、揺り起されていた。

そうして五年が経ち、間もなく小学校ゆえ君枝を河童路地へ連れて戻ると、君枝は痩せて顔色がわるく、青洟で筒っぽうの袖をこちこちにして、陰気な娘だった。両親のないことがもう子供心にこたえるらしく、それ故の精のなさかと、見れば不憫で、鮭を焼いて食べさせたところ、

「これ何ちゅうお菜なら?」と里訛で訊くのだった。

「鮭いう魚や。」

「魚て何なら?」

それでは、里では魚も食べさせて貰えなかったのかと、他吉はほろりとして、

「取るものだけはきちきち取りくさって、そんな目に会わしてやがったのか。