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わがまち

わが町

織田 作之助

「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页

青空文庫

、君枝はその方の案内に、混雑時など、

「△△方面へお越しの方はございませんか。」とひっきりなしに叫び、声も疲れた。

馴れぬ客はまごつき、運転手も余り歓迎せぬ制度ゆえ、案内係は余程の親切・丁寧・機敏が要る。しかし、君枝はそんなにまで勤めなくてもと監督が言うくらい、熱心で、愛嬌もあり、親切週間に市内版の新聞記者が写真をとりに来て、たちまち難波駅の人気者になった。小柄の一徳か、動作も敏捷で、声も必要以上にきんきんと高く、だから客たちは冗談を言いかける隙がなかった。

君枝は自分でも、駅の構内から吐きだされて来る客を、一列に並ばせて、つぎつぎと捌いて行く気持は、何ともいえず快いと思った。けれど、千のつく数の客を捌き終って、交替時間が来て、日が暮れ、扉を閉めた途端にすっとすべりだして行く最後の車の爆音をききながら、ほっと息ついて靴下止めを緊めなおしていると、ふと、「お祖父やんは人力車ァで、孫は自動車の案内とは、こらまたえらい凝ったもんやなア」と口軽にいった〆団治の言葉が想いだされて、機械で走る自動車と違って、人力車はからだ全体でひかねばならぬと、祖父の苦労を想ってにわかに心が曇った。