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わがまち
わが町
織田 作之助
「文藝 第十巻年十一号」改造社、1942(昭和17)年11月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 25,869 字 · 52 页
そんな君枝の心は、しかし他吉は与り知らず、七月九日の生国魂神社の夏祭には、お渡御の人足に雇われて行くのである。重い鎧を着ると、三十銭上りの二円五十銭の日当だ。
「もう良え加減に、鎧みたいなもん着るのん止めときなはれ。私拝むさかい、あんな暑くるしいもん着んといて。」
君枝が半泣きで止めても、他吉は、
「阿呆らしい。去年着られたもんが、今年着られんことがあるかい。暑いいうたかて、大阪の夏はお前マニラの冬や。」
と、その方に廻るのだ。
丁度その日は公休日で、よりによってこんな日にぶらぶらしていることが、君枝はなにか済まぬ気がして、お渡御など見る気がせず、家を出た足でせかせかと下寺町の坂を降りると、自然千日前の電気写真館の方へ向いた。
もとあった変装写真や歌舞伎役者の写真がすっかり姿を消して、出征の記念写真が目立って多くなっているなかに、どうした奇蹟か、二十年前のマラソン競争の記念写真が、三枚一円八十銭の見本だと、値だけ高くなって陳列されているのを、なつかしそうにまるで陳列ガラスを舐めんばかりにして、瞶ていると、
「お君ちゃん、――と違いますか。」
と、声をかけられた。