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わがせいしんのしゅうい

わが精神の周囲

坂口 安吾

「群像 第四巻第一〇号」1949(昭和24)年10月1日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 15,670 字 · 32 页

青空文庫

だから妙に遠慮せず、ハッキリと「にっぽん物語」と題をつけてくれた方がよかったのである。新潮社が遠慮すべき点は、ほかに在った。それは、私の承諾を得ずに、発表してはいけない、という一事であった。

私は今まで、全部の完成を見ぬうちに発表した長篇は、すべてが中絶という運命にあった。これは作者の個性的な性癖の一つで、仕方がないものであろうと思う。その反面、全部の完成を見るまで発表を控えたものは、二年三年の難航はあっても、それぞれ完成しているのである。私はその運命を怖れた。そして、新潮の社員に、題名などは何でもいゝが、全部の完成を見るまで発表を控えて欲しいという一事だけ、特別に言いつゞけていたのであった。借金のことなど、雑誌社にも言い分はあることだし、発表された今となっては、もう仕方がない。女々しく取乱すよりも、私として最も大切な一事は、従来の運命をくつがえして、すでに発表されたこの小説をあくまで完成しなければならない、ということであった。

ところが困ったことに、私がなんと焦っても、私一個の焦りだけで、この小説を書きすゝめることが出来ない障碍が行く手にあった。