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わがちをおうひとびと

わが血を追ふ人々

坂口 安吾

「近代文学 第一巻第一号」1946(昭和21)年1月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,546 字 · 21 页

青空文庫

「よし、よし。たゞ、それだけで良いのだ。お前は安心して江戸へ行つてくるが良い。商ひをしてくるがよい。だが、ヒエロニモよ。私の言葉、天主様のお心にかなう正しい道がたゞ一つあるといふことを忘れるな。やがてその道がお前の眼前にひらかれてくるだらう。それはな、世の中がこのまゝであつてはならぬといふことだ。旅にでゝ、異教徒どもの世の中、奉教人の許されぬ世の中が、どのやうな汚れにみちみちてゐるか、良く見てくるがよい。世の中がこのまゝであつてはならぬといふ御主の声がお前の耳にひゞくであらう。その日その時を忘れるな。そしてそれからお前が何を考へるか、お前の口からきく日まで、私はそなたの旅の帰りを何よりの楽しみに待ちかねてゐよう。さア、人々が待つてゐる。お前はでかけて来るがよい」

次兵衛の胸ははれてゐた。彼は美しい少年を見てゐるうちは安心しきつてゐられたし、やがては彼のもとに戻り、同じ運命を辿るであらうといふことを信じることもできるのだ。夜明けの冷めたさが彼の壮烈な活動力を気持よくなでゝゐた。するともはや彼は瞬時もとゞまりがたい活気のために幸福でいつぱいだつた。この町、あの村に残して行つた信徒たち。