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わがちをおうひとびと

わが血を追ふ人々

坂口 安吾

「近代文学 第一巻第一号」1946(昭和21)年1月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,546 字 · 21 页

青空文庫

もし彼らが殉教をまぬかれて生きてゐたら、苦しみを分ち、新しい勇気を与へるために、次兵衛は希望の豊かさに満足した。彼の三十四の肉体は流浪の生活に衰へを見せぬばかりか、その感情は二十の若さから全く老けてゐなかつた。あゝ、二年ぶりで見るなつかしい港、四郎に別れて丘の藪をかきわけながら、口笛を吹き、枯れそめた木々に呼びかけてゐた。金鍔次兵衛神父様の御帰還だ。さア、新しい闘争が、この丘で、また、始まるぜ。忘れ得ぬ捕吏の顔まで、友達のやうに思はれるのだ。

一年の歳月が流れ、再び秋が訪れて、商品を売りつくした四郎父子はやうやく帰途についてゐた。

異郷の空で日毎に見知らぬ顧客に対して、歓心をひき、計算し、秘密な心理の勝敗を意識しつゞけた四郎は、急速に特異な発育をつゞけてゐた。医者が患者を見るときの物質的な冷めたさが、人に対する彼の心の底面積になつてゐた。それが全て人々の賞讃から得た果実であり、人の世の平凡、常識、低俗に、虚無的な退屈を負ふた。すでに彼は十四にして断崖に孤絶し、足もとの奈落を冷然と見て、遠いふるさとに呼びかけてゐた。絶対の王者。呼べばすでに答へがきこえる。