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わがちをおうひとびと

わが血を追ふ人々

坂口 安吾

「近代文学 第一巻第一号」1946(昭和21)年1月10日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,546 字 · 21 页

青空文庫

彼は聖処女の山師であつた。

彼らは大垣の宿をでゝ、南宮山を眺めながら関ヶ原を歩いてゐた。たゞこの古戦場を見るために帰りの旅に陸路を選んだ甚兵衛は感無量であつた。小西行長の祐筆の家に生れた彼は幼少のため関ヶ原の合戦に参加せず、故郷の宇土で主家の没落を迎へた。出発前に軍記をあさつて関ヶ原の地形だけは心に控えた甚兵衛だつたが、似た山ばかりで、どれが主家の陣地を構へた天満山やら、それすらもしかと分らない。たゞ伊吹山は静寂な姿を横へ、敗残の身を山中にさまよふドン・アゴスチノ行長を思へば千丈の嗟嘆あるのみ、踏む足毎にはらからの白骨に当る思ひであつた。

「この草も、木も、屍に生えたものなんだな。四郎よ。強者共の鯨波の声、馬蹄のひゞき、剣の触れ合ふ音までが、きこえるやうな気がするわい。思へば無念なことだ。ドン・アゴスチノ様がお勝ちになつてゐたならばな」

「さうすれば、三ツのルシヤも、四ツのマキゼンシヤも火に焼かれては死にますまい」

「なに?」

四郎の眼はうるみの深い熱気によつて燃えてゐた。その唇は無限の訴へにふるへ、祈る眼で父を見つめた。

「出発の朝パードレ様の仰有せられたお言葉が耳にきこえてゐます。