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アド・バルーン

アド・バルーン

織田 作之助

「新文学」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页

青空文庫

が、やはりテクテクと歩いて行ったのは金の工面に日の暮れるその足で、少しでも文子のいる東京へ近づきたいという気持にせきたてられたのと、一つには放浪への郷愁でした。

真夏の日射しはきつかった。麦藁帽の下から手拭を垂らして、日を除けながらトボトボ歩きました。京都へ着くと、もう日が暮れていましたが、それでも歩きつづけて、石山まで行ってやっと野宿しました。朝、瀬多川で顔を洗い、駅前の飯屋で朝ごはんを食べると、もう十五銭しか残っていなかった。それで煙草とマッチを買い、残った三銭をマッチの箱の中に入れて、おりから瀬多川で行われていたボート競争も見ずに、歩きだした。ところが、煙草がなくなるころには、いつかマッチ箱の中の三銭も落してしまい、もう大福餅一つ買えなかった。それほど放心した歩き方だったのでしょう。腹は空ってくる。おまけに暑さにあてられて、目まいがする。そんな時、道端の百姓家へ泣きこんで事情を打ち明けると、食事を恵んでくれる親切なお内儀さんもありました。が、しまいにはもうそれもできなかった。というのは、事情を話せば恵んでくれるでしょうが、そのための口を利く元気すらない時の方が多かったのです。