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アド・バルーン

アド・バルーン

織田 作之助

「新文学」1946(昭和21)年3月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页

青空文庫

といえば嘘みたいですが、本当に疲労と空腹がはげしくなれば、口を利くのもうるさくなる。ままよ、面倒くさい口を利くくらいなら、いっそ食べずにおこうと思うわけ、そしてそんな状態が続けば、しまいには口を利きたくても唇が動かなくなるのです。そうして、やっと豊橋の近くまで来た時は、もう一歩も動けず、目の前は真っ白、たまりかねて線路工夫の弁当を盗みました。みつかって、警察へ突き出される覚悟でした。おかしい話ですが、留置所へはいって食う飯のことが目にちらついてならなかった。人間もこうまであさましくなるものかと思いました。が、線路工夫には見つからずにすんで、いわば当てが外れたみたいなものでした。その弁当でいくらか力がついたので、またトボトボと歩いて、静岡まで来ましたが、ふらふらになりながら、まず探したのは交番、やっと辿りついて豊橋で弁当を盗んだことを自首しました。

人のよさそうな巡査はしかし取り合わず、弁当を恵んで、働くことを薦めてくれました。安倍川の川さらいの仕事です。私はさっそくやってみましたが、何しろはじめは夢中になるくせにすぐへたばってしまう性質ですから、力を平均に使うということを知りません。