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アド・バルーン
アド・バルーン
織田 作之助
「新文学」1946(昭和21)年3月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 27,390 字 · 53 页
相変らずの貯蓄会社の外交員で、うだつがあがらぬと言ってしまえばそれまでだが、しかし、もう私にはたいした望みもない。私を誘惑する大阪の灯ももうすっかり消えてしまい、かえって気持が落ちついている。外交をして廻っていると、儲ける機会もないではなく、そしてまた何年かのちに、また新聞に二度目の秋山さんとの会合を書かれることを思えば、少しは……と思わぬこともなかったが、しかし、書かれると思えばかえって自分を慎みたい、不正なことはできないと思った。そして、秋山さんも私と同じような気持で、九州でほそぼそとしかしまじめに働いているのではなかろうか……。
茶店を出ると、蝉の声を聴きながら私はケーブルの乗場へ歩いて行ったが、ちょこちょこと随いてくる父の老妻の皺くちゃの顔を見ながら、ふとこの婆さんに孝行してやろうと思った。そして、気がつくと、私は「今日も空には軽気球……」とぼそぼそ口ずさんでいました。