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アンドロギュノスのちすじ
アンドロギュノスの裔
渡辺 温
渡辺温『アンドロギュノスの裔』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アンドロギュノスの裔、可哀相な姉、或る母の話、父を失う話、花嫁の訂正、イワンとイワンの兄、恋、勝敗、少女、シルクハット、嘘、象牙の牌、兵隊の死、ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった、遺書に就て、赤い煙突、風船美人、四月馬鹿、十年後の映画界、浪漫趣味者として。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 页
Y君は遉にびっくりした。
『なあに? 誰がお泊んなさいって云って? ――可笑しい人ねえ。でも、大丈夫。泊めて上げてよ。』
Y君と娘は楽しく腕を組み合わせながら。公園を抜けると、空車を拾って乗った。伯母さんの家と云うのは、暗い山の手町にある下等な下宿屋の一軒だった。そこの狭い階段を娘に手を引かれながら上がる時、上の方から降りて来た病気持ちらしい醜い大年増が、すれ違いざまに娘の耳を引っぱって笑った。Y君はその女が、公園で最初の夜に、自分に云い寄った鴇色のリボンの女に似ているような気がしてならなかった。
『伯母さん?』
『ええ、そう――』
Y君はいきなり娘の手をふりもぎって、戸外へ走り出し度くなったのを漸く我慢した。方々の扉の隙間から、風体の悪い下宿人共が羨ましそうにY君を眺めていた。
『ベアトリイチェや、帳場へ行って電話をかけて来ておくれ。』とY君は突然思い付いたように云った。
『中央区、二千七百九○番――お嬢さんにお休みなさいまし、とね。それだけで、いいんだよ。』
『あら、お安くないわね。何処のお嬢さん?』
『君なんか知る必要のない人さ。とにかく、それだけ取次いでくれたまえ。