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アンドロギュノスのちすじ

アンドロギュノスの裔

渡辺 温

渡辺温『アンドロギュノスの裔』。同一底本的分册已合并为一书。收入:アンドロギュノスの裔、可哀相な姉、或る母の話、父を失う話、花嫁の訂正、イワンとイワンの兄、恋、勝敗、少女、シルクハット、嘘、象牙の牌、兵隊の死、ああ華族様だよ と私は嘘を吐くのであった、遺書に就て、赤い煙突、風船美人、四月馬鹿、十年後の映画界、浪漫趣味者として。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 129,168 字 · 267 页

青空文庫

――異人さん、もう乗っていらっしやるわよ。」

と娘に教えられる迄もなく、私は切符を買いながらそっと、軽気球の籠をまたぎかけている背の延びた岱赭色の洋服を見てとった、私はいそいそとそのあとに従った。

私と西洋人との他に、丸髷に結った田舎者らしい女の人が、少しばかり蒼ざめた顔をして、その連れの中学生と二人で乗っていた。

西洋人は籠の外へ顔をそらした儘、パイプの煙草を吸った。

やがて、新しい瓦斯を充満した軽気球は砂袋を落として、静かに身をゆすぶりながら上騰しはじめた。すると丸髷の女の人は声を立てて中学生の肩へしがみついた。そのために、均合をはずした籠がドシンと大きく傾いたので、西洋人もおどろいて振り返った。

西洋人は無精髯を一っぱい生やしていたが、それでもツルゲエネフのような優しい顔であった。そして薄い茶色の眼は、ひょっとしたら愁しげな光を含んでいるように、私は感じた。

――おろしてくんねえかな!」と丸髷の女の人は泣き出しそうになって云った。

――駄目だよ。いごくから余計と揺れるんだ。ちっともおっかねえもんかね。」と中学生は狼狽えて相手を叱った。だが、中学生もやっぱり、茫漠と涯しもない天空のただ中で、小さな籠一つへ身を托したことが、そぞろ恐ろしくなって来たに違いなく、歯の根をカチカチ鳴らしていた。