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オペラのつじ
オペラの辻
岡本 かの子
「婦人サロン」1932(昭和7)年5月号
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,858 字 · 8 页
それほど彼等は人間離れのした装飾物となってお互いに見惚れることにわれを忘れている。こういう場合、巴里の男女は情痴を却ってうるさいものとする。現代人の彼等は眼の楽しみだけで沢山だ。一々心まで掘下げてはやりきれないという。
カフェの前が大通。オペラ通りを十字に横切ってイタリアン大通。界隈の男女達は潮のようにこの十字路へどよめきかかる。
ルイ朝式の服を着たマダムがポケット猿を抱え人に揺られながら、アルジェリアの服装をした楽師風の男と猿の病気の話をしている。ウルトラヴィオレットの電光飾はほとんど町を硝子細工のようにした。二階造りのショーウィンドウに悉く燈がついて銀色のマネキン人形たちは白い支那絹に出来た緑の影を機械的に見せ合っている。
二度目に自分等が巴里へ入ったとき(最初は私達は子どもだけパリへ置いてロンドンへ渡り約一年後に巴里に来た。)こどもが最初に私達を誘ったのはこのカフェ・ド・ユ・ラ・ペイユだった。
「なるほど美感の贅沢なこの子が巴里を好きで好きでたまらなかった筈だ」
と私はその時思った。
「やっぱり巴里にこどもを取られる――仕方がないかしら」
と私は私自身陶然として来る心のなかでうやむやにもがいた。