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オペラのつじ

オペラの辻

岡本 かの子

「婦人サロン」1932(昭和7)年5月号

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 3,858 字 · 8 页

青空文庫

この子がいないでもなげかれるし、この子がいてうるさくてもなげきだ。つまり絶ち切れない因縁のふかみこそはなげきなのだ。

この子がこんなにも好きな巴里だ。自分だって好きな巴里だ。「いつまでも巴里にいたくなった」と英国にいた時着いた手紙にこの子が書いてよこした。私のこの子へのなげきが卑怯にも怯え切った。

「自分が連れて来て仕舞った巴里に奪られるのじゃないか」

と自嘲しても見た。

こどもは画家を志して東京の美術学校へもよい成績で入った。こどもの洋行はゆっくり卒業後という腹で一家はあった。ところが突然、父親が依頼された仕事の関係上、またわたしの勉強の都合上急に日本を立つことになった。そして子どもは予定どおり日本に残して学校を卒業の上代り合って洋行と一応相談を極めた。けれども出立間際になって私は子どもをどうしても手放せなかった。短い一生だ、二三年でも愛に背きたくは無い。無理にでも子どもを連れて行くといい出した。他人は早くから巴里へ修業におやりになり感心な親だとほめた。しかしほんとはほめられた義理のものではなかったのだ。この子どものような母が自分の兄のような大きな子どもが手ばなせないと駄々をこねたに過ぎなかったのだ。