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チェーホフのたんぺんについて
カシタンカ・ねむい 他七篇
神西 清
神西清『カシタンカ・ねむい 他七篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:チェーホフの短篇に就いて、チェーホフ序説。
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 页
になると、医者ラーギンの破滅という主題そのものにおいて、無抵抗の教養に対する手きびしい揶揄が殆ど自嘲の調子をすら帯びて響いていることは、おそらく衆評の一致するところだろう。『中二階のある家』(一八九六)や『わが生活』(一八九六)では、既にかなり冷却したトルストイ観が、挿話的に顔をのぞかせているに過ぎなくなっている。トルストイズムへの反抗が最後的な爆発を見せている作品は、『すぐり』(一八九八)である。トルストイの民話『人はどっさり土地がいるか』は、結局三アルシン(七尺ほど)で足りるという落ちになっている。チェーホフはそこを捕まえて、それは死体のはなしで人間じゃない、人間に要るのは自由な精神を思うぞんぶん発揮できる全地球だ全自然だと、作中の獣医に叫ばせているのだ。
では、それでトルストイとは縁切りか。全地球だの全自然だのという景気のいい宣言は、またしても例のマーマレードを思い出させないでもないが、その辺は大丈夫か。……などと念を押されると、やはりそうはっきりと機械的な返事をするわけに行かない事情もあるようだ。トルストイに対するチェーホフの態度には、理念の上の否定ということだけでは割り切れない、一種微妙なものが残っているからだ。