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チェーホフのたんぺんについて

カシタンカ・ねむい 他七篇

神西 清

神西清『カシタンカ・ねむい 他七篇』。同一底本的分册已合并为一书。收入:チェーホフの短篇に就いて、チェーホフ序説。

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 46,418 字 · 92 页

青空文庫

にとり憑かれ、この流刑地に関する文献の渉猟に没頭した。出発前の彼の手紙から、この遠征の意図についての彼自身の証言を集めることは勿論可能である。それによると、彼はこの旅行が文学や科学に大した寄与をするだろうとは思っていない。それには知識も時間も自惚も不足している。まあ百頁かそこらのものを書いて、せっかく学んだ医学に些かの恩返しができればいいと思う。何はともあれこの旅行は、半年ほどにわたる心身二つながらの間断ない労働だろう。自分は典型的な小ロシヤ人で、そろそろ怠け癖がつきだしたから、この際ひとつ根性骨を叩き直す必要がある。まかり間違ったところでこの旅行から、終生忘れられぬような悲喜いずれかの思出ぐらいは得られるだろう。サガレン流刑の実状が恕すべからざる社会悪であることは勿論で、西欧の文化国なら罪はわれわれ自身にあることが夙に自覚されているはずなのだが、わが国では罪を「赤鼻の獄吏」に転嫁してのほほんとしている。ただし遺憾ながら自分は視察者として適任ではない。要するに自分は個人的なつまらぬ動機で行くにすぎない――ということになる。傍点は例のユーモアの所在を注意するために筆者が仮に添えたものだが、いかにチェーホフのはにかみを計算に入れたところで、あれほどの壮図を裏づけるだけの動機をこれらの言葉から抽き出すことは到底