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カストリしゃじけん

カストリ社事件

坂口 安吾

「別冊オール読物」1948(昭和23)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,043 字 · 21 页

青空文庫

そのとき、カストリ社の扉をあけ、

「ワア、ひでえ。借金とり退治に熊を飼いやがったんじゃ、ねえだろうな。オレだって、原稿料をサイソクする、借金と同じぐれえ、苦しいもんだよ。こっちの気持も、察しやがれ」

と、ブツブツ云って這入ってきたのは、社長の先生の友達で、文士の赤木三平という男であった。

「やア、赤木か。近う、まいれ。今日は、景気よく、原稿料を払ってつかわす」

花田が身も世もあらず、吠え狂っている。三平先生、これを横目にジロリと見て、

「かの男は、歯が痛むのか」

「バカな。あれほど苦しむのは、睾丸炎に限るもんじゃ。今日は、いさゝか事の次第があって、彼はこの場に切腹せんとしておる。同様の事の次第によって、君にも、景気よく、原稿料を払う。どうしても、本日、使いきってしまわねばならぬ残金があってな。エート、原稿料、赤木三平、一万一千円也、これは多すぎる」

「コレ、コレ、五ヶ月分、たまっているのだぞ」

「そうか。然し、端数は切りすてゝ、一万円、即ち耳をそろえ、あと、一万五千円ほど、残っておるから、これより、宴会をひらく。コレ、花田ウジよ、泣くでないぞ。切腹は、とりやめじゃ。