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カストリしゃじけん

カストリ社事件

坂口 安吾

「別冊オール読物」1948(昭和23)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,043 字 · 21 页

青空文庫

カストリ雑誌などゝ云って、天下は挙げて軽蔑するけれども、これを一冊つくるんだって、容易じゃないよ。まア、社長の顔を見てごらんなさい。やつれていますよ。これは、キヌギヌの疲れ、などという粋筋のものではない。生活難です。

「オイ、居ると云っちゃ、いかん。居ると云っちゃ、いかん」

これが社長の口癖であった。彼は必死なのである。

なんとかして、カストリ社の入口に受附をつくらねばならぬ。入口の扉をあける。ビルの一室を占めているカストリ社の全景は、ただちに見晴らしではないか。これは怪しからん。

「ねえ、先生、ウアッ、怪しからん。生命にかかわる。わが社は、受附をつくらねばならぬ」

「なにィ」

このカストリ社は、社長を先生とよぶ。なぜなら、彼は文士である。文士であった。粋であった。通であった。粋にして、通なるものが、カストリとは、何事であるか。世の終りだ。

文藝春秋とか、鎌倉文庫とか、文士が社長の雑誌社は、例がある。然し、彼らは、カストリ雑誌ではなく、思想高遠、威名天下にあまねく、それらの偉大なる社に於ては、チンピラ記者といえども、カストリの如きは、飲まぬ。ワア、ひでえ。