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カストリしゃじけん

カストリ社事件

坂口 安吾

「別冊オール読物」1948(昭和23)年9月20日

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 10,043 字 · 21 页

青空文庫

死んだのか、生きているのか、意識があるのか、ないのか、分らない。

国際親善紳士が、スックと立ち上った。片彦はバネ仕掛にとび上って、逃げ腰となって、

「いけねえな。心臓が、弱くなるよ。オレは、全然、ちがうんだから、まちがえちゃ、いけねえなア。危ぶねえなア。オット、いけねえ」

「つまみだせ」

秘書に云い残して、大紳士は立ち去った。

「ハア、ボクが、つまみだします」

片彦は肩幅一メートル氏の顔色をうかゞいながら、

「たのみます。つまみだしても、いゝですか。死んでるのかな。いいですか、ゆさぶッても。オレを、なぐっちゃ、いけねえなア。なんだか、なぐられそうで、行かれねえもの。ちょッと、はなれて、くれませんか」

片彦は、ぬき足、さし足、近づいて、花田を、ゆさぶる。ものゝ二三分もゆさぶって、ようやく、花田は、目をあけた。

これで、カストリ社事件が終ったのである。

「気を失ったのは、一分間ぐらいなんだ。ワシは、こゝを必死と、死んだフリをしていたんだ。鼻血のヌルヌル、気持のわるいこと。うまく行けば、これで助かる、ワシはそう思うと、あらゆる神仏を念じたな」

これが、花田一郎の述懐であった。