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カナリヤとしょうじょ
カナリヤと少女
山川 方夫
「中部日本新聞(夕刊) 第7446号」1963(昭和38)年3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,534 字 · 5 页
……いつのまにか、少女は、若者へのはげしい恋におちてしまっていた。だが、彼女は目だけでしかその心を語りかけることができなかった。
春が過ぎた。若者はまた遠い海に出発しなければならなかった。陸ですごすべき彼の日々は、あまりに短かった。
明朝出港するという夜、少女は若者が店にくると、その前に立って、まばたきもせず彼の目をみつめた。
帰ってきて。かならず。そして私といっしょになって。おねがい。
少女は、全身の思いをその目にこめ、必死にそう訴えつづけた。おねがい。約束して。
若者はすこしうろたえたような顔になって、だが、笑いながら二、三度首をたてに振った。彼は、ただ、無事でね、とはげまされたのだとだけ解釈したのだった。
ほんと? ほんとなのね?
若者は、やさしく少女の肩をたたいた。少女は顔を真赤にして、その手をとり、指切りのかたちに二人の小指をむすんだ。つよく振った。若者は、またうなずいてみせた。
少女は目をつぶった。幸福が胸をみたしていた。もう、目で会話する必要はなかった。彼は彼女であり、彼女は彼であった。二人は一つだった。……少女は、それを信じた。
カナリヤが、その二人の肩を往復して、祝福するように美しい声で啼きつづけた。