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カナリヤとしょうじょ
カナリヤと少女
山川 方夫
「中部日本新聞(夕刊) 第7446号」1963(昭和38)年3月12日
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 2,534 字 · 5 页
若者の乗った船の遭難は、それから二ヵ月の後であった。洋上の嵐は大きかった。十日ほどして、他の船が、かなりはなれた海上で彼の船の船具の破片を発見した。
少女は、ぼんやりと浜辺に立ち、海をみつめている夜が多くなった。そのまま朝を迎えてしまうこともあった。肩には、いつもカナリヤがとまっていた。
彼をうばった海、あの若者と自分とのあいだに立ちはだかり、横たわって、生きて動いている巨大な海、彼をかくしている壁。――彼女には、もはやその目で会話をかわすべき相手は、そんな海のほかにはなかったのだ。
しかし、海は、彼との距離しか語ってはくれなかった。
ある日、ふと彼女は思った。でも、あの人は、海の向う側にいるのじゃない、海に溶けてしまったのだ。そうだ。あの人は、「海」になってしまったのだ。
そのとき、ふいに海が彼になった。彼が語りかけた。ねえ、おれたちが指切りをした夜、あのとき、おれたちは一つのものになった。どうして、君だけがそこにいるの?
はやく、君もこい。おれたちはいっしょになる約束じゃなかったのか?
さあ。はやく。君も海になってしまえ。おれたちは溶けあい、一つになり、そのおれたちの中をたくさんの魚が泳ぎ、海藻がゆらめく、同じ一つの暗い海になるんだ。