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ガラマサどん

ガラマサどん

佐々木 邦

「キング」1930(昭和5)年1月~12月

N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页

青空文庫

しかし中島さんは、

「もう宜いよ」

と直ぐに機嫌を直して、

「時に太夫さん」

とお隣りへ話しかけた。太夫さんはお歴々と同乗した積りで恐懼している。そこへ首の問題なんか持ち出しては気が利かない。

「へい/\」

「大将の義太夫は何んなものですか?」

「へい」

「あれで巧いんですか?」

「さよう」

「駈引のないところ」

「学のあるお方でいらっしゃいますから、理窟の方はナカ/\仰有います」

「実際の方は拙いんでしょう?」

「何う致しまして。ナカ/\お耳が肥えていらっしゃいます」

「自分で語る方は何うですか?」

「もう随分長くやっていらっしゃいますから」

「多少堂に入っているんですか?」

「私が先の師匠に代ってから五年でございます。先の師匠は私の師匠で近頃にない名人でございました。これに十年もおつきになったんですから、御研究は充分積んでいらっしゃいます」

「長いことは分っていますが、見込があるんですか? ないんですか?」

「すべて芸事というものは一生涯修業でございますよ」

と太夫さんは明答を避けた。

「要するに拙いんですな」

「いや、何う致しまして」

「太夫さんもお骨が折れましょう」

「へい」

「結局、持て余しものだと仰有らないばかりじゃありませんか?」