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ガラマサどん
ガラマサどん
佐々木 邦
「キング」1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页
しかし物は考えようさ。禍を転じて福にするように心掛けなければいけない。毎晩拝聴を仰せつかりながら、今こそ迷惑しているけれど、将来は必ず人に迷惑をかけるくらいの身分になりたいと発心した」
「はゝあ」
「当時、我輩が詩を吟じたところで誰も迷惑しない。何となれば、『やかましい! 黙れ』の一喝で問題が片付く。しかし相応の地位になると否応なく聴かせる。声の遊芸を聴かせるか聴かされるかで人物が定ると考えた」
「これは驚きました」
「演説にしても然うだろう? 聴かせる方が聴かされる方よりも大抵の場合豪い」
「はあ」
「物事の逆を行くことが時には必要だよ。若し当時義太夫が厭だ/\と思っていたら、我輩は恐らく今日がなかったろう。今に見ろと思って聴いていたから、勤まったし、好きにもなった。今ではあの弁護士に感謝している。尤ももう疾うに死んでしまったけれど」
「好い御教訓です」
「その後数年で何うやらコーヒ湯の飲める身分になったが、未だ/\義太夫を語るには遠い。単に好きで彼方此方聴いて歩く丈けだった。それが二十年も続いたろうね。実に一朝一夕じゃない」
「会社へお入りになってから、お始めでしたか?」