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ガラマサどん
ガラマサどん
佐々木 邦
「キング」1930(昭和5)年1月~12月
N2 · 挑战 · 新字新假名 · 99,079 字 · 202 页
「今漸く手が明いたところですよ」
「お叱り済みかい?」
「図星です」
「ところで斯うっと……」
「急な御用ですか?」
「さあ。今何時だね?」
と言って、栗栖さんは時計を見上げた。松本さんも釣り込まれて、壁間を仰いだ。
その刹那に、栗栖さんは松本さんの額を手早く撫ぜて逃げて行った。
「占まった」
と松本さんは今更気がついて追おうとしたが、もう晩かった。
「ハッハヽヽ」
とこれは私だった。社長が居ないと天下晴れて笑える。
「何うも彼奴は茶目でいけない」
「ハッハヽヽ」
「君、何故僕の額を撫ぜたか分るかい?」
と松本さんが訊いた。
「さあ」
「僕がおビンズルさまに似ていると言うんだ」
「成程」
「何うだい? 似ているかい?」
「さあ」
「おい!」
「似ちゃいないが、何うしたと言うんだい?」
「ところが栗栖君は生写しだと言うんだ。何か御利益があるかと思って、参詣の序に撫ぜて行くんだって」
「馬鹿にしていやがる」
「無論冗談さ」
「冗談にしても失敬だ」
と私はこの通り言葉使いが変って来た。秘書室に机を並べてから半年、叱られ相手の松本さんとは境遇上共鳴するところが多い所為か、悉皆懇意になった。以前は兼任で居候の格だったが、最近宣伝部の方の本務が解けて秘書専任になったから自然鼻息が荒い。